あの日のボタン

はてなインターネット文学賞「記憶に残っている、あの日」

 

娘が保育園に通っていた頃のことです。

閉園間近の時間に迎えに行くと教室の前でシクシクと泣いていました

先生の話では、娘の保育園用の運動帽子のてっぺんにつけていたボタンを、

同じクラスの男の子がちぎって隣のマンションの敷地に投げてしまったそうです。

フェンスで仕切られて入れないようになっています。

そのボタンは娘と二人でボタン屋さんに行って買った、深い藍に橙のお日様の絵が描かれているものでした。

ギリシャ神話に出てくるような太陽の絵で、小さい子が選ばなそうなものでしたが娘は気に入っていました)

その帽子をかぶって明日行われる運動会に出るのを楽しみにしていたのでしょう。

 

でも、その時のわたしはため息をつきたい心持ちでした。

一日働いてへとへとで、帰ってからやることもたくさんあるのに、

ここでまた時間を取られるのね、という。

心の余裕がなかったわたしは、ろくに探しもせずに娘をなだめすかして帰りました。

 

あまり泣くことのなかった娘の気持ちをないがしろにしてしまったあの日のことは、

今でも胸の奥にしこりとなって残っています。

なぜそのままボタン屋さんに行ってあげなかったのか。

閉まっていても行ったことで娘の気持ちも少しは晴れたはずです。

新しいボタンをつけることもなく、翌日、そのまま運動会に参加しました。

 

小さかった彼女も今年成人式を迎えました。

おそらく娘はもう忘れてしまっているでしょう。

ただ、いまだに素直に謝れていないわたしは取り残されたままです。